こんにちは、ProFit行政書士事務所の宇賀神です。
今回はドローン業務に関わる契約を締結する際に適用される請負契約と準委任契約について解説をします。
なお本解説は記事執筆時点の情報に基づくものであり、ドローンの飛行に当たっては最新の情報を確認のうえ各自で必要な判断及び対応をお願いします。
目次
はじめに
ドローンビジネスの拡大に伴い、フリーランスパイロットとして活躍する方が増えています。しかし、クライアントと契約を結ぶ際、「請負契約」と「準委任契約」のどちらを選ぶべきか迷っていませんか?契約形態の選択は、報酬の支払い条件や責任の範囲に大きく影響します。本記事では、ドローンパイロットの実務に即して、両契約の違いとそれぞれのメリット・デメリットを解説します。
請負契約とは?
1. 基本的な定義
請負契約とは、「仕事の完成」を約束し、その対価として報酬を受け取る契約形態です(民法第632条)。ドローン業務では、空撮映像の納品、測量データの提供、点検報告書の作成など、明確な成果物がある業務に適しています。
2. ドローン業務での具体例
- 空撮案件:指定された建物や風景の4K映像を撮影・編集して納品
- 測量業務:農地や建設現場の3Dマップデータを作成して提供
- 点検業務:橋梁やソーラーパネルの点検を行い、報告書を作成
3. 請負契約の特徴
1. 成果物の完成義務
契約で定めた成果物を完成させなければ原則として報酬を請求できません。例えば、空撮案件で天候不良により撮影できなかった場合、別日に再撮影して納品する義務があります。
2. 瑕疵担保責任
納品した成果物に欠陥(瑕疵)があった場合、一定期間内であれば修正や損害賠償の責任を負います。例えば、測量データに誤差があれば、無償で再測量を行う必要があります(民法第636条)。
3. 業務遂行の自由度
基本的に、どのように業務を進めるかはパイロット側に裁量があります。使用する機体、撮影時刻、飛行ルートなどを自分で決定できます。
4. 報酬の支払い条件
成果物の納品完了時に報酬が発生します(民法第633条)。途中で業務を中断した場合、原則として報酬は支払われません。
準委任契約とは?
1. 基本的な定義
準委任契約とは、「一定の業務を行うこと」を約束する契約形態で、成果物の完成は必須ではありません(民法第656条)。ドローン業務では、継続的な業務提供や、納品する成果物がない業務に適しています。
2. ドローン業務での具体例
- 定期巡回警備:工事現場や施設の定期的な空中巡回
- イベント撮影サポート:野外イベントでの空撮支援(天候次第で中止の可能性あり)
- ドローン講習補助:スクールでの飛行指導アシスタント業務
- 災害時の状況確認飛行:被害状況の確認(危険で接近できない場合もある)
3. 準委任契約の特徴
1. 善管注意義務
「善良な管理者としての注意義務」を持って業務を遂行する必要があります(民法第644条)が、必ずしも特定の成果を出す必要はありません。ベストを尽くしたが天候不良で飛行できなかった場合でも、報酬請求権が認められる可能性があります。
2. 報酬支払いの特約設定
準委任契約は民法上、特約を定めない限り委任者に対し報酬を請求することができない契約になっています(民法第648条)。そのため、契約書上で必ず報酬の支払いにいて定める必要があります。
3. 報酬の発生タイミング
業務を遂行した時点で報酬が発生します(民法第648条)。多くの場合、時間制(時給・日給)や月額報酬の形式が取られます。
4. クライアントの指示権限
準委任契約では、クライアントから具体的な指示を受けることが多くなります。飛行時刻、撮影ポイント、使用機材などについて指定される場合があります。
5. 成果物の瑕疵責任
成果物の完成を目的としていないため、請負契約ほど重い瑕疵担保責任は負いません。ただし、善管注意義務違反があれば責任を問われることがあります。
両契約の比較
| 項目 | 請負契約 | 準委任契約 |
|---|---|---|
| 目的 | 仕事の完成 | 業務の遂行 |
| 報酬発生条件 | 成果物の納品時 | 業務遂行時 |
| 責任 | 瑕疵担保責任(重い) | 善管注意義務(軽い) |
| 業務の指揮 | パイロット側の裁量 | クライアントの指示が入りやすい |
| 適した業務 | 空撮納品、測量、点検報告 | 定期巡回、イベント支援、講習補助 |
ドローンパイロットが注意すべきポイント
1. 契約書の明確化
口頭での約束だけでなく、必ず書面で契約内容を残しましょう。特に以下の項目は明記すべきです。
- 業務内容:具体的な撮影対象、飛行範囲、納品物の仕様
- 報酬額と支払い条件:金額、支払日、支払い方法
- 天候不良時の取り扱い:中止・延期の基準、キャンセル料の有無
- 保険と責任:事故時の責任分担、損害賠償の上限
- 所有権・著作権の帰属:撮影した映像・データの権利関係
2. 天候リスクへの対応
ドローン業務は天候に大きく左右されます。請負契約の場合、悪天候で飛行できなくても完成義務は残ります。契約書に「悪天候による延期条項」や「再撮影の費用負担」を明記することが重要です。
3. 機材トラブルへの備え
機体の故障や不具合も起こりえます。請負契約では完成義務があるため、予備機の準備や、納期延長の条項を設けることをお勧めします。
4. 損害保険の加入
どちらの契約形態でも、対人・対物の損害保険には必ず加入しましょう。万が一の墜落事故による第三者への損害は、個人では負担しきれない金額になる可能性があります。
契約形態の選び方
1. 請負契約が適しているケース
- 明確な成果物(映像、データ、報告書)の納品がある
- 業務遂行の方法について裁量を持ちたい
- 一定期間内に確実に完成できる見込みがある
2. 準委任契約が適しているケース
- 納品する成果物がない
- 継続的・定期的な業務提供が求められる
- クライアントの指示に従って柔軟に対応する必要がある
3. ハイブリッド型の提案
実務では、両契約の要素を組み合わせた契約も有効です。例えば
- 基本報酬(準委任)+ 成果報酬(請負):定期巡回の基本料金に加え、異常発見時の対応に追加報酬
- 準委任契約+成果物の納品:業務遂行を約束しつつ、一定の成果物の納品を行う
まとめ
ドローンパイロットとして活動する上で、請負契約と準委任契約の違いを理解することは非常に重要です。
- 請負契約は、空撮や測量など明確な成果物がある案件に適しており、完成責任が重い代わりに業務の自由度が高い
- 準委任契約は、定期巡回やイベント支援など、成果を保証できない業務に適しており、業務遂行で報酬が発生する
どちらの契約形態を選ぶかは、業務内容、リスク、報酬体系によって判断すべきです。迷った場合は、行政書士などの専門家に相談することをお勧めします。適切な契約を結ぶことで、トラブルを未然に防ぎ、安心してドローンビジネスを展開できます。
ProFit行政書士事務所では、ドローンパイロット向けの契約書作成・リーガルチェックのサポートを行っています。お気軽にご相談ください。



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