こんにちは、ProFit行政書士事務所の宇賀神です。
今回は2024年8月20日に制定されたJIS Y1011(ドローンサービス事業者に対するプロセス要求事項)(以下、「JIS Y1011」とします。)について解説をします。
なお本解説は記事執筆時点の情報に基づくものであり、実際の利活用にあたっては最新の情報を確認のうえ各自で必要な判断及び対応をお願いします。
目次
1. JISとは
JISについては日本規格協会グループのHPに説明があり、以下のように説明されています。
様々な製品やサービスの品質を確保すること等を目的として、プロセス要求事項を規格として規定しています。
日本産業規格(JIS=Japanese Industrial Standardsの略)。日本の産業製品に関する規格や測定法などが定められた日本の国家規格のことです。自動車や電化製品などの産業製品生産に関するものから、文字コードやプログラムコードといった情報処理、サービスに関する規格などもあります。
一般的に「標準(=規格)」は任意のものですが、法規などに引用された場合は強制力を持ちます。
標準化の意義は、自由に放置すれば、多様化・複雑化・無秩序化してしまうモノやコトについて、
- 経済・社会活動の利便性の確保(互換性の確保等)
- 生産の効率化(品種削減を通じての量産化等)
- 公正性を確保(消費者の利益の確保、取引の単純化等)
- 技術進歩の促進(新しい知識の創造や新技術の開発・普及の支援等)
- 安全や健康の保持
- 環境の保全等
上記の観点から、技術文書として国レベルの「規格」を制定し、これを全国的に「統一」または「単純化」することです。
日本規格協会グループ “JISとは”
https://www.jsa.or.jp/whats_jis/whats_jis_index/
(参照2024-08-30)
今回制定されたJIS Y1011の本文はJISC(日本産業標準調査会)のホームページから閲覧することが可能です(要ユーザー登録)。
トップページ右側の「JIS検索」から「JIS規格番号からJISを検索」の検索欄に”Y1101″を入力するとJIS Y1011の詳細画面に遷移し、ここからPDFを開くことができます。
また、閲覧のみではなくPDFをダウンロードしたい場合は日本規格協会グループのホームページから購入することが可能です。
なお、JIS規格は著作権法で保護されており、転載や引用には著作者の利用許諾が必要となっています。
そのため本記事では規格そのものの転載や引用は行わず、その概要について解説をします。
2. JIS Y1101制定の目的
経済産業省のJIS Y1011の制定に関する発表によると、農業や物流、空撮、点検などの分野でドローンサービスが拡大している中、サービス品質確保のための統一ルールがないことで顧客満足度の低下が懸念されており、更なるドローンサービスの普及のためには、ドローンサービスの提供に当たって事業者が満たすべき事項を規定する等により、ドローンサービスの品質を向上させることが必要不可欠とされています。
そこで、ドローンサービス事業者が、ドローンサービスの提供に当たって必要となるプロセスや基準をプロセス要求事項として定めたJISを制定したと述べられています。
3. JIS Y1011の内容
JIS Y1011では、ドローンサービスの提供前、ドローンサービスの提供中及びドローンサービスの提供後とドローンサービス提供の時系列に沿ってドローンサービス事業者が実施しなければならない事項をプロセス要求事項として定めている点が特徴です。
時系列に沿った記載となっているため、流れが掴みやすく規格としては比較的読みやすいのではないでしょうか。
また、プロセス要求事項で作成が求められる文書を手順、手順書、記録として定めている点も特徴です。詳しくはJIS Y1011 附属書Aに記載がありますのでそちらを参照ください。
なお先に述べたようにJIS Y1011は(利用許諾なく)転載や引用ができないため、内容をより詳しく知りたい方はJIS Y1011をお手元で参照できる状態で以下ご覧いただければと思います。
3-1. 適用範囲
JIS Y1011はドローンサービス事業者の業種、形態、規模又は提供するドローンサービスに関係なく、あらゆるドローンサービス事業者に適用するとしています。
規模や内容等を問わず、ドローンを利用したサービスを提供する事業者が適用を受けることとなります。
なお、ここでいうドローンにはいわゆる陸上ドローンや水中ドローンは含まれません。
3-2. 引用規格
引用規格としてJIS Q 0073:2010(リスクマネジメントー用語)とJIS Q 9000:3025(品質リスクマネジメントシステムー基本及び用語)が規定されております。
JISS Y1011でこれらの規格が引用されている場合には、その一部または全部がプロセス要求事項となります。
3-3. 用語及び定義
JIS Y1011でいうドローンサービスとは、無人航空機を含む有形及び/又は無形の資源を使用して、ドローンサービス事業者がドローンサービス発注者に対して提供するサービスと定義されています。
有形の資源とはドローン本体や操縦機、モニター、無形の資源とは電波などを指します。
また、ここでいう無人航空機の定義は、航空法第二条第二十二項の定義と同一の内容になっています。
ただし、航空法では100グラム未満の無人航空機を法の適用除外としていますが、JIS Y1011ではそういった例外規定は設けれられておらず、100グラム未満の無人航空機も適用対象となる点に注意が必要です。
3-4. ドローンサービスの提供体制
JIS Y1011では、ドローンサービスの提供に係るプロセス要求事項を大きくサービス提供前、サービス提供中、サービス提供後に分けて規定しています。
詳しくはJIS Y1011 附属書Bにプロセスフローチャートがありますのでそちらを参照ください。
また、各プロセス要求事項では作成が求められる文書(以下、赤色の下線部分)を規定しています。
3-4-1. サービス提供前
ドローンサービス事業者のプロセス要求事項として以下を規定しています。
- 事業計画・仕様・品質
- 資源の管理
- 人員管理
- 機材管理
- 外部供給者管理
- 法令等の遵守
- 情報・プライバシー保護の活動
- リスクマネジメント
- 手順書などの準備
事業計画・仕様・品質
事業計画・仕様・品質では、いわゆる提供するドローンサービスに関する事業計画等の策定を求めています。
またこれらを規定した事業計画書、ドローンサービスの仕様、サービス品質設定書といった文書の作成も求められています。
資源の管理
資源の管理では、人員管理、機材管理、外部供給者管理に区分し、それぞれの管理態勢の整備を求めています。
人員管理では整備する管理態勢に応じて、職能定義書、人員能力管理表、人員の能力の獲得、維持及び向上の活動の記録、人員計画、機材管理では整備する管理態勢に応じて、機材定義書、機材の保管状態、機材の保守履歴、機材計画といった文書の作成が求められています。
外部供給者管理では、外部委託先の選定基準といった基準の策定が求められています。
法令等の遵守
法令等の遵守では、提供するドローンサービスに関する法令等の遵守態勢の整備が求められています。
法令等遵守の手順書、管理対象法令等リストといった文書の作成が求められています。
情報・プライバシー保護の活動
情報・プライバシー保護の活動では、ドローンサービスに関する情報保護及び/又はプライバシー保護の方針の策定を求められています。
情報保護及び/又はプライバシー保護の方針を文書で作成する必要があります。
リスクマネジメント
リスクマネジメントでは、後述するリスクアセスメントやリスク対応、事故への対応などを含むリスクマネジメント手順書の作成が求められています。
手順書などの準備
手順書などの準備では、サービス提供前及びサービス提供中の各プロセスで規定されている手順書等をサービスを受注する前に作成しておく必要があることを規定しています。
3-4-2. サービス提供中
ドローンサービス事業者のプロセス要求事項として以下を規定しています。
(カッコのプロセスはJIS Y1011で具体的な規定は設けられていません)
- 案件確認
- 提案作成
- 工程管理
- 設計
- 準備
- 情報・プライバシー保護
- 飛行業務
- 事故などにつながる可能性をもった事象の把握
- 事故などへの対策
- (運行後業務)
- (成果物作成)
- (納品)
- モニタリング
案件確認
案件確認では、利害関係社とのコミュニケーションを行うこととしており、利害関係者とのコミュニケーションの手順の作成が求められています。
提案作成
提案作成では、ドローンサービスの提案の手順を文書化することが求められています。
また、発注者の役割、リスクの情報、損害発生時の対応、免責事項を含むドローンサービスの仕様を明確にすることも求められています。
工程管理
ドローンサービスの工程を管理するため、ドローンサービスの工程管理の手順の作成が求められています。
設計
ドローンサービスの設計では、資源の見積り、受注したドローンサービスで遵守する法令等及び実施事項の明確化、リスクアセスメント、リスク対応、飛行計画といった事項を含む手順でドローンサービスの具体的な内容を設計しなければならないと規定しています。
また、資源の見積り手順、法令等遵守事項確認リスト、飛行計画作成の手順書の作成が求められています。
準備
人員・機材などの資源の確保、またドローンサービスの提供に必要な場合、外部調達及び/又は外部委託をしてもよいと規定しています。
この場合、外部調達の手順書及び/又は外部委託の手順書の作成が求められます。
また、外部調達先から求めれた場合は、職種に火長な能力の評価並びにその評価方法及び判定基準を提示しなければならない点に注意が必要です。
情報・プライバシー保護
サービス提供前のプロセスで作成が求められている情報保護及び/又はプライバシー保護の方針に従い、情報及びプライバシー保護の手順を作成することが求められています。
飛行業務
離陸、航行、着陸、チェック、ブリーフィング、撤収といった飛行業務のほか、事故などにつながる可能性をもった事象に遭遇した場合及び/又は事故などが発生した場合、その事象の記録及び/又は事故などに対し行った対策の内容を記録しなければならないと規定されています。
それぞれ、事故などにつながる可能性を持った事象の記録、事故などへの対策の記録の作成が求められています。
モニタリング
ドローンサービスの案件ごとにモニタリングを実施しなければならないと規定されています。
また、モニタリングの手順、モニタリングの記録の作成が求められています。
3-4-3. サービス提供後
ドローンサービス事業者のプロセス要求事項として以下を規定しています。
- 継続的改善のための見直し
モニタリングの結果などに基づき、ドローンサービスの見直しを実施しなければならないと規定されています。
ドローンサービスの見直しの記録の作成が求められています。
4. 今後の展望
記事執筆時点でJIS Y1011は法令等に引用されるものではないため、これらの規定には強制力はありません。
しかし 2. JIS Y1011制定の目的で述べられているように、今後ドローンサービスの提供に関する統一ルールとしてJIS Y1011が浸透していった場合、ドローン発注者からの発注要件や入札要件となる可能性があり、ドローンサービス事業者はJIS Y1011への適合を求められることになります。
また、航空法等の関連法令でJIS Y1011が引用されることとなった場合、強制力を持つことでJIS Y1011への不適合が法令違反となったり、法令違反により罰則を受けたりする可能性があります。
そのため、ドローンサービス事業者はJIS Y1011 の規定をまずよく理解し、各要求事項に適合できるよう現行プロセスの見直しや改善、文書整備を適宜進めていくことが必要でしょう。
以上ざっと本解釈に関する解説をしましたが、いかがでしたでしょうか。
JIS Y1011の要求事項は必ずしも具体的ではなく、各要求どう解釈し適用すべきか迷うことが多々あるでしょう。
また規格が制定されたばかりであるため、前例や他社事例とった参考情報もありません。
そのため、ご自身で対応が難しいと感じた場合には行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
当事務所でもドローンに関する法務相談を受け付けております。
初回相談は無料としていますので、ドローンの飛行に関してご不明な点や不安がある場合にはお気軽にご連絡ください。
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